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介護予防の視点介護予防の視点

Vol.35 認知症の方とのコミュニケーションのあり方とは

こんにちは、作業療法士の高野栄吉です。

今回は、認知症についてお話したいと思います。認知症についてはこのコラムでも何度か取り上げ、様々な情報を発信してまいりました。今回は特に、『認知症の利用者様とのコミュニケーションのあり方』についてご紹介していきたいと思います。

突然ですが皆さんは、認知症の方とお話したことはありますか?核家族化が進み、おじいちゃんやおばあちゃんと同居する家庭も減ってしまった現在、認知症といわれても、TVなどのメディアからの情報だけという方が多いのではないのでしょうか。その一方で、現在は5人に1人が65歳以上の老人と言われるほどの高齢化社会です。TVや各メディア・ゲームでまでも「脳トレ」というキーワードがよく聞かれます。その背景には、認知症に対する漠然とした不安が根本にあるからではないでしょうか。

私は普段、認知症のため介護を必要とする利用者様に対して、作業療法を通じて生活支援をさせていただいております。利用者様との関わりの中で、どうも世間で思われている認知症と、支援させていただいている認知症の利用者様とは、印象が違うのではないか、と感じています。認知症は、決して訳の分からない得体の知れない恐ろしいものではありません。私たちが認知症についての正しい知識を持つことで、過度な不安は解消され家族を支えてもいけるのです。ぜひ一緒に、認知症についての理解を深めていきましょう。

認知症ってどういう状態をいうの?

「認知症」とは,『いったん正常に発達した知能(脳)に何らかの原因で記憶・判断力などの障害が起き,日常生活がうまく行えなくなるような病的状態』を言います。認知症になるとこの記憶障害を中心とした認知機能が障害されます。この認知機能障害によって、必ず現れる症状があり、それを中核症状といいます。

【中核症状】

〇 記憶障害

  • さっき聞いたことが思い出せない
  • 覚えていたはずの記憶が失われる

〇 見当識障害

  • 時間・季節・場所等の感覚が分からなくなる
  • 道順などが分からなくなる

〇 理解・判断力の障害

  • 考えるスピードが遅くなる
  • いつもと違うことで混乱しやすくなる

〇 実行機能障害

  • 前もって計画をたてることができない
  • 家電や自販機などが使いこなせない

しかし実は、中核症状には、認知症の暗いイメージである、徘徊(はいかい)・暴言・暴力・異食・幻覚といわれる周辺症状(以下BPSD)はありません。BPSDは、不安感・不快感・焦燥感・身体的不調・ストレスなどがかかることで初めて現れるのです。

逆を言えば、記憶障害などの中核症状に配慮しながらBPSDを発生させてしまう要素を取り除いていけば、穏やかでその人らしさを保てるといわれています。

どうして問題となるような行動をするの?

ではなぜ、たった今食べたこと自体忘れてしまったり、何度言っても同じことを繰り返すような認知症の方々に数々のストレスが加わると、徘徊や暴言・幻覚などのBPSDが出てしまうのでしょうか。それは、記憶障害などの中核症状があっても、『感情』はしっかり残っているからです。『人間は感情を持った動物である』と言われますが、かなり認知症が重度になっても感情は残存しています。また、認知症を持つ方々は記憶障害などの中核症状があるからこそ、余計に他者からの態度や声がけなど対して過敏になり、不安を余計に抱いているのだと思います。ですから、気持ちが穏やかに過ごしていただくためにはどのように接すればよいのか、それを探求することが認知症ケアにはとても大切になってきます。

どう対応したらいいの?

日々の忙しさの中、何度も何度も立ち上がったり、同じ話を繰り返す、さっき食べたばかりなのに「食事を食べさせてくれない!」と訴える方と関わることは、介護する方にも相当な負担が掛かります。頻回に立つ利用者様に「立たないで!」の一言、何か声をかけられても「自分で出来るでしょ!」「ちょっと待って!」の一言、何回も繰り返されるとどうしても言ってしまいがちです。しかしこれらの言葉がけをやめ、相手の思いを大切にするように少し対応を変えたらどうなるでしょう?

例えば、配膳作業を行っている時、利用者様が立ち上がりました。そんな時は、座らせようとせずにそのまま立たせます。立つという行為には必ず理由があります。単にお尻が痛くなったのかもしれませんし、トイレに行きたいのかもしれません。そのままトイレに誘導すれば意外に落ち着くかもしれません。周囲には理解されなくても、その方にとっての大事な理由があることも多いのです。しかし本人にとって何かの理由があっても、多くの場合、上手く言えなかったり、言ってもなかなか理解されません。そんな時、利用者様の近くにいき「どうしたのですか?」とやさしく声をかける、もしくはそのまま見守る、これを繰り返していくと意外に立ち上がりの数が減っていきます。つまり、『立ち上がる』という行為だけを見て対応してしまうと、「座って!」という抑制によってストレスが高まり、逆に立ち上がりを助長させてしまうのです。しかし、逆に「なぜ立つのか?」の理由を探索し、利用者様の思いを汲み取るような関わりを続けることで、利用者様の安心感が増し落ち着いていくのです。つまり、認知症を持つ方への対応には、その人自身をみつめていくことが大切です。その人個人の尊厳を大切にした対応をご家庭でも施設内でも行っていきたいものです。

しかし、最初から安心感を提供できる関係を形成できるとは限りません。初めて施設を利用する利用者様の場合、不安を抱くのは利用者様だけではなくお世話させていただく我々も正直戸惑います。でも、そこで利用者様の訴えや表情・仕草などを観察した上で、その方の生活パターンや性格を把握した上で、その方に適した声がけ・声量・立ち位置など考えます。つまりその人らしさを見つけその人に合った関わり方を模索していく、これが認知症ケアにおいて重要なポイントなのです。

そんな利用者様へのコミュニケーションのポイントは、私たちの日常生活においても当てはまることが多いのではないのでしょうか。そう言っている私も、この原稿を書いている途中、何回も子供に「ねえ、見て!見て!縄跳びがこんなに上手くなったよ!」と声をかけられると、最後の方はパソコンの画面を見ながら「上手くなったね〜」なんて心無い返事をしています。また、時計の読み方を子供に教える時も、何回教えても分からない子供に、自分の口調がだんだん強くなっていくことに気付いたり…。でも、その時々で相手の思いを汲み取ろうとする努力はやはり必要ですよね。子供に対して聞くことや伝えることをおろそかにすれば、子供は他の人に対してもおろそかに接することになるのでしょう。相手の気持ちを汲み取りながら、どうしたら相手の心に響くかを考える。認知症を持つ方との関わりを考えることは、普段の我々の人間関係における大切なことつまり、『相手の思いを汲み取ることの大切さ』を考えることにつながると思います。

また、ご家庭で認知症の方への介護を頑張っていらっしゃる方もこのコラムをご覧になっていると思います。日々の介護で、頭では分かっているけどどうしてもつい、乱暴な言葉になってしまったり、行動も抑制してしまうこともあると思います。24時間認知症の方と共に暮すというのは、心に余裕がなければ『相手の思いを汲み取ること』は、やはり難しいです。認知症の方はもちろん、介護をされている方にとっても自分の人生は大切です。あなたらしくいられるように、積極的に各種の介護サービスを利用したりご家族にも協力してもらうことで、心にゆとりのある介護生活をおくることが大切だと思います。

相田みつをさん風に言えば…
「たくさんの手で、慈しみ育てられた私の命、
死ぬまで大切にされたい。人間だもの」

新年度を迎え新しい環境や新たな仲間が入るなど、まだまだ忙しい生活を過ごしていらっしゃると思います。ここで今一度、自分を含めまわりの人の『心』を大切にしながらこれからも進んでいきたいものですね。

参考資料
1)HP:東京認知症ナビ
2)認知症ケア標準テキスト認知症ケアの基礎 日本認知症ケア学会編 
  株式会社ワールドプランニング

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

福島県いわき市小名浜

☎ 0246-58-2300

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