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介護予防の視点介護予防の視点

Vol.20 認知症の方のリハビリ

こんにちは。PTの平山友恵です。
毎日、寒い日が続いていますが、みなさま風邪をひかないよう手洗い、うがいを忘れずに、元気に過ごしましょう!

今回は認知症の方のリハビリについて感じたことを書きたいと思います。
 
認知症というのは、年のせいとかちょっとした物忘れとは違って、脳の病的な変化によって起こる「病気」です。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など様々な種類があります。頭を使わないからとか何もしないから認知症になるということではなく、認知症は「病気」によって起こる症状です。誰でも病気にかかりたくてかかるわけではありませんし、どのような方でも病気になる可能性はあります。
 
認知症のリハビリとして、「学習療法」「作業療法」「回想法」「音楽療法」などがあり、デイケアなどでも精神や身体機能の維持を目的に「レクリエーション」を行ったりします。
「学習療法」は、読み・書き・計算を中心とした学習を行い、脳を活性化させます。
「作業療法は」、塗り絵、書道、折り紙、ちぎり絵などを行います。上手にできるようになったから効果があるのではなく、それをすることで楽しい時間を過ごすことが目的です。
「回想法」は、昔の記憶を思い出すきっかけになるものを見せて、思い出を自由に語ってもらいます。
「音楽療法」は、懐かしい音楽を聴いたり、歌ったり、楽器を演奏したり色々な方法があります。
「レクリエーション」には、風船バレーや、ラジオ体操、輪投げなど色々な種類があります。
長い時間では疲れたり飽きてしまうので30分〜1時間程度が目安です。

認知症のリハビリは、本人が楽しいことをするのが一番です。認知症になると記憶力や知的能力など色々な能力が低下していきますが、うれしい、楽しい、悲しい、腹が立つといった感情は残っています。やりたくないことを無理やりやらされるのが嫌なのは、認知症であってもなくても変わりません。体に良いからといって無理強いすることはかえって逆効果になってしまうこともあります。
 
なすがままでボーっとしていたり、なぜ自分がここにいるのかわからなくて早く家に帰りたがっている方がいます。「この方はどんな人生を送ってきたんだろう?」「何に興味があって、どんなことを楽しいと思い、どんなことが好きで嫌いで、今何を考えていて、何をしたいんだろう?」と考えます。



難しいのは、十人十色、千差万別、人それぞれ育ってきた環境、送ってきた人生、好きなものや嫌いなものが違うということです。大勢と一緒に体操して交流することが楽しくてやる気が出る方もいれば、一人で静かに俳句を読むのが好きな方もいます。決して教科書通りにいきません。

私が最近読んだ認知症についての本に、『身体のリハビリテーションは、失われた身体の機能を回復するために訓練を行い人間性を回復することだが、認知症のリハビリテーションは機能低下した大脳機能を訓練して機能を回復することではない。認知症のリハビリテーションプログラムへの参加で明るく楽しい時間を過ごして、苦痛や悩みのない生活を楽しんでもらうためのお手伝いをする。それによって人間性を回復していく方向にいければ幸い、と考えてほしい。』と書いてありました。
 
「楽しい時間を」ということが一番なのですが、身体が弱くなっていくのを間近で見ていると、どうしても動いてもらいたい気持ちが先走ってしまい、うまく進まないリハビリに自分自身焦ったりしてしまいます。
 
体を動かしたくない、何もやる気がしない、とリハビリを拒否される方が多くいます。そんな方たちに、「どのようなことなら楽しくやっていただけるだろう」と頭をひねるのですが・・・。私はまだまだ修行が足りず、全員の方に「楽しいリハビリ」が提供できていません。煮詰まって、へこたれることがあります。
 
お年寄りの手を握って、肩に手を置いて、声をかけること。言葉で自分の気持ちを伝えることが難しくなっている、その方が向けてくれる笑顔に、「これもリハビリなんだなぁ」と勉強させていただいて、元気をもらって、またがんばろうと思います。私の方がかえってリハビリしていただいているようです。

先日、訪問リハビリに行く途中、ラジオで詩の朗読をしていました。それがあまりにも感動して、運転中にもかかわらずちょっと涙ぐんでしまったので、最後に紹介したいと思います。
 
 
手紙 〜親愛なる子供たちへ〜
 
年老いた私が ある日 今までの私と違っていたとしても
どうかそのままの私のことを理解して欲しい
私が服の上に食べ物をこぼしても 靴ひもを結び忘れても
あなたに色んなことを教えたように見守って欲しい
あなたと話す時 同じ話を何度も何度も繰り返しても
その結果をどうかさえぎらずにうなずいて欲しい
あなたにせがまれて繰り返し読んだ絵本のあたたかな結末は
いつも同じでも私の心を平和にしてくれた
悲しい事ではないんだ 消え去ってゆくように見える私の心へと
励ましのまなざしを向けて欲しい
楽しいひと時に 私が思わず下着を濡らしてしまったり
お風呂に入るのをいやがるときには思い出して欲しい
あなたを追い回し 何度も着替えさせたり 様々な理由をつけて
いやがるあなたとお風呂に入った 懐かしい日のことを
悲しい事ではないんだ 旅立ちの前の準備をしている私に
祝福の祈りを捧げて欲しい
いずれ歯も弱り 飲み込むことさえ出来なくなるかも知れない
足も衰えて立ち上がる事すら出来なくなったら
あなたが か弱い足で立ち上がろうと私に助けを求めたように
よろめく私に どうかあなたの手を握らせて欲しい
私の姿を見て悲しんだり 自分が無力だと思わないで欲しい
あなたを抱きしめる力がないのを知るのはつらい事だけど
私を理解して支えてくれる心だけを持っていて欲しい
きっとそれだけでそれだけで 私には勇気がわいてくるのです
あなたの人生の始まりに私がしっかりと付き添ったように
私の人生の終わりに少しだけ付き添って欲しい
あなたが生まれてくれたことで私が受けた多くの喜びと
あなたに対する変わらぬ愛を持って笑顔で答えたい
私の子供たちへ
愛する子供たちへ
 
原作詞:不詳/訳詞:角 智織/補足詞:樋口了一
 
【参考文献】
・老年期痴呆の治療と看護:青葉安里、 株式会社 南江堂
・わかりやすい痴呆介護の基礎知識:和田秀樹、 株式会社 オークラ出版
・あなたの家族が病気になったときに読む本 認知症:福井次矢他、 講談社
・「寝たきりゼロ」の予防とリハビリ:岡田勢一、 ひかりのくに株式会社

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

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福島県いわき市小名浜

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