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いわき泌尿器科医療コラム

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腎臓を守るための「新たな一手」-- GLP-1受容体作動薬の腎保護効果について --

2025.12.18常盤傑医師

慢性腎臓病(CKD)の治療は、長らく「血圧管理」や「減塩」によって、悪化のスピードを少しでも緩めることが主眼でした。しかし近年、SGLT2阻害薬の普及、そして2024年に強固なエビデンスが示されたGLP-1受容体作動薬(特にセマグルチド)により、治療の選択肢は着実に広がりつつあります。

本稿では、2024年の医学界で大きな話題となった「FLOW試験」の結果をもとに、この薬剤の可能性と限界について、最新の医学的根拠に基づいて解説します。

2024年の重要エビデンス「FLOW試験」

GLP-1受容体作動薬(オゼンピック、リベルサス、トルリシティ等)は、本来「2型糖尿病治療薬」です。以前から、本剤の使用により「尿中アルブミン(腎障害のサイン)」が減少することは知られていましたが、それが本当に「腎不全を防ぐか」までは証明されていませんでした。

その答えを示したのが、2024年にNew England Journal of Medicine誌で発表された「FLOW試験」です。2型糖尿病を合併したCKD患者約3,500名を対象に、セマグルチド(週1回製剤)の効果を検証した結果、以下の事実が明らかになりました。

主要複合エンドポイント(腎不全の発症、eGFRの50%以上の低下、腎・心血管死)のリスクを、プラセボ群と比較して24%低下させた。

この結果により、少なくともセマグルチドについては、単なる血糖降下薬の枠を超え、SGLT2阻害薬に続く腎臓予後改善が期待される新たな選択肢であることが示されました。

作用機序:SGLT2阻害薬との違い

現在、腎保護のベースとなる薬剤はRA系阻害薬(ACE阻害薬/ARB)とSGLT2阻害薬であり、GLP-1受容体作動薬は、それらに上乗せして使用が検討される追加の選択肢として位置づけられています。両者は異なるアプローチで腎臓に関与すると考えられています。

SGLT2阻害薬 =「負荷の軽減」

腎臓への過剰な血流流入を是正し、糸球体内圧を下げることで腎臓を「休ませて守る」働きをします。

GLP-1受容体作動薬 =「代謝・抗炎症」

体重・血糖管理による間接的な負荷軽減に加え、基礎研究レベルでは腎臓における慢性的な炎症や酸化ストレスを低減させる可能性が示唆されています。

併用療法(SGLT2阻害薬+GLP-1作動薬)の現状

「すでにSGLT2阻害薬を飲んでいる場合、上乗せ効果はあるのか?」という点は、臨床的に非常に重要です。ここについては、正確な事実を知っておく必要があります。

FLOW試験のサブ解析(Nature Medicine 2024)では、以下の結果が示されています。

SGLT2阻害薬を使用していなかった患者群

セマグルチドの追加により、腎イベントのリスクが有意に低下しました(明確な効果)。

SGLT2阻害薬をすでに使用していた患者群(全体の約15%)

今回の試験データでは、セマグルチドを追加しても統計学的に有意なリスク低下は認められませんでした(ハザード比 1.07)。

この結果は「併用しても意味がない」と断定するものではありません(症例数が少なかった影響も考えられます)。なお、SGLT2阻害薬の有無による効果の差を検討したinteraction解析では統計学的に有意な異質性は認められておらず、eGFRスロープや心血管イベント、全死亡といったアウトカムではSGLT2阻害薬の有無にかかわらず臨床的ベネフィットが示唆されています。

しかし、現時点のエビデンスとしては、「すでにSGLT2阻害薬で治療されている方への腎イベントに対する上乗せ効果は、まだ確実には証明されていない」という慎重な解釈が必要です。

治療適応と副作用・注意点

本剤は有望な薬剤ですが、使用には注意が必要です。

適応

日本国内ではあくまで「2型糖尿病」の治療薬として承認されています。「慢性腎臓病」単独の病名では保険適用となりません。

副作用・注意点

おわりに

医学の進歩により、「透析導入を少しでも先送りにできる可能性」は以前よりも高まっています。特に、SGLT2阻害薬を使用できない、あるいは使用しても尿アルブミンが多い「2型糖尿病かつ肥満傾向」の方にとっては、GLP-1受容体作動薬は有力な選択肢となりえます。

ご自身の病状において、この新しい選択肢が適しているかどうか、主治医とよく相談し、最適な治療戦略を検討していくことが大切です。

【参考文献】

【免責事項】
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を推奨するものではありません。
治療の適否については、必ず主治医にご相談ください。

診察予定表

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常盤 傑(ときわ すぐる)

2006年3月 岩手医科大学 卒業
2006年4月 岩手医科大学医学部泌尿器科学講座入局
2010年4月 岩手県立釜石病院泌尿器科
2011年4月 北上済生会病院泌尿器科
2012年4月 岩手医科大学医学部泌尿器科学講座 助教
2014年4月 ときわ会常磐病院
  • 日本泌尿器科学会 専門医、指導医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • ロコモサポートドクター
  • 透析バスキュラーアクセスインターベンション治療専門医
  • 透析バスキュラーアクセスインターベンション血管内治療医

【常盤傑医師 Instagram】

https://www.instagram.com/tokiwa.2022/?locale=ja_JP