文字サイズ:

介護予防の視点介護予防の視点

Vol.10 リハビリにおける動機づけについて

こんにちは!小名浜ときわ苑リハビリテーション部の理学療法士、鯨岡栄一郎です。
 
新年度に変わり、このコラムも2周り目となりました。今年度も、スタッフ全員が知恵をしぼりながら、みなさまのお役に立つような情報を毎月お届けしてまいりたいと思います。

さて、今回はちょっと視点を変えたお話をしてみたいと思います。
 
介護予防のみならず、福祉・医療分野において、その方の意欲向上や動機づけというのは、実は非常に重要な部分です。場合によっては、その意欲如何で元々のリハビリや治療の進み具合を左右することにもなります。
 
しかし日本において、この動機づけ・モチベーションの向上といったあたりの話が、意外に触れられていません。実は、リハビリやケアサービスを提供する側からの動機づけ、やる気になる声かけは非常に重要なエッセンスとなります。

モチベーションや意欲が低下する要因には、色々と挙げられます。確かに、体の動きが不自由になり、人の手を借りなければならない。また、ただでさえ単調になりがちな施設生活ですから、なかなか元気を出しづらい、意欲が出ない、といった理由も多いかと思います。もっている疾患そのものが関与している場合もあります。
 
現状でリハビリの回数もなかなか増やせない中、言葉によって勇気づけ、モチベーションを上げていくことは重要です。我われは、その方が行った動作の中で、ちょっとした変化を見逃さず、そこを褒めます。この場合、「できた部分」をとらえるというところがミソで、「できていない部分」の指摘ばかりが続くと、あまり面白味がなくなってくるのと同時に、混乱を起こし、意欲も低下してきます。
 
さらに言えば、「褒める」という行為はある種こちら側の評価が含まれている(つまり、こちらの基準以下の場合、褒めることができない)ので、一番いいのが、コーチングにおける『承認 Acknowledgement』です。その人の行為自体を認めて、伝える(フィードバックする)ということです。『承認』は相手の行動エネルギーを高めます。
 
例えば、
(1)「よくやりましたね」「すごいですね」「がんばりましたね」
(2)「髪を切ったんですね」「今日は顔色がいいですね」「今朝は早いですね」
(3)「助かりました」「ありがとうございます」「うれしいです」

どうでしょう。何となく雰囲気に違いがあるのが分かりますか?
(1)は『結果を伝える承認』です。最も一般的に使われていると思います。
(2)は『事実を伝える承認』です。褒められているわけではないが、自分のことをよく見ているのが伝わってきて、何となくうれしい感じがします。
(3)は『気持ちを伝える承認』。自分の率直な気持ちをそのまま伝える承認で、言われると最もうれしいかもしれません。(3)は「私」を主語にして伝える、いわゆるI(私)メッセージと呼ばれるものです。



例えば、歩行訓練中に承認するとしたら、「今日も歩いてらっしゃいますね。」「前よりしっかりしてきたように感じますよ。」「一生懸命やっていただけると、私もうれしいです。」といった感じになります。その行為や状態自体を認める、というイメージです。
 
人間誰しも自分を見てほしい、認められたい、褒められたい、という欲求がありますから、こういった声かけはとても効果的です。

先日、あるテキストを読んでいましたら、特に高齢者の運動に関して「励まし」の効能が書かれていました。その声かけにも色々とバリエーションがあります。「よくやった!」「いいですね〜」「完璧!」「最高!」「素晴らしい!」「そんな感じ!」などなど。それに加えて、その方の名前を付け加えて言うと良いようです。「うまいですよ、○○さん!」のように。重要なのは、あまり神経質にならず、楽しくやればできる、という雰囲気づくりです。簡単に言えば、どんどんのせていく、といった感じでしょうか。
 
そこをいくと、当苑のリハビリスタッフは皆「のせ上手」ですよ!見ると色々と工夫されているのが分かります。いつも笑いの絶えない楽しい雰囲気でリハビリが行われています。
 
リハビリにおいて、提供する側、受ける側ともに、ついついできない部分に意識が行きがち。でも不自由ながらも、今の時点で出来ていることも必ずあるはずです。確かに出来ているのに、いつまでも出来ている感覚にない。なかなか自覚できない。そう、「出来ないこと」ばかりに焦点が当たってしまっている状態です。我われの役目はこうした声かけによって、「ここの部分は確かにできているんですよ」という意識づけ、動機づけです。
 
たとえ小さなことでも、目標を見せる(イメージさせる)。一緒に考える。小さな成功体験をつくり、その回数を重ねる。そして今の状態をフィードバックする。その辺が自信になり、やる気へとつながります。
 
私自身、現在訪問リハビリにも行っておりまして、その最中にも上記のことを心がけて進めています。通常のリハビリ、プラス言葉のエッセンスですね。そのせいかどうか、みなさん非常に意欲的にやって下さってますし、大きいのは、次回のリハビリまでに課題を自分で設定し、かなりの割合でそれを実行してくださることです。
 
みなさんが『楽しくて』『元気になる』・・そんなリハビリを目指したいものですね!!
 
 
参考文献:
・Seniorcise A Simple Guide to Fitness for the Elderly and Disabled  Janie Clark
・看護師のためのコーチングハンドブック  最上輝未子  心育研

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

福島県いわき市小名浜

☎ 0246-58-2300

看護師サイト

二人のソプラノSempre ff 土井由美子と常盤梢