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有事下での食事を考える

2011年3月11日午後2時46分、日本人の誰もが経験したことのない未曾有の大災害。
生涯忘れることのできない日、忘れてはいけない日。
当院のある福島県いわき市も地震・大津波・原発問題・それに伴う風評被害等、甚大な被害が発生しました。
まだまだ収束がみえない原発問題に市民は怯えてはいますが、少しずつ震災前の日常生活を取り戻しつつあります。

震災時の体験を振り返り、有事下で我々がどのような意識を持ち「食」と向き合わなくてはならないのか考察してみました。

地震発生直後の12日午後3時30分頃、福島第1原子力発電所1号機が水素爆発しました。
以降、いわき市街から人影が無くなり、最寄りのスーパーマーケットも1週間開店しない状態が続きました。
やっと再開したスーパーマーケットの陳列棚に残っていたのは、鰻のたれ・こんにゃく・練りあん・いちごジャム・ホワイトソース缶・ミートソース缶・たけのこ水煮・お麩・砂糖・めんつゆ・ホットケーキミックスだけでした。

また、原子力災害の影響で物資が市内に入って来なくなってしまったため、肉・魚・卵・牛乳を購入出来たのは、震災後2週間経ってからでした。

材料が十分揃わない究極とも言えるこの状況下で、手に入れた食材で作った5品の料理をご紹介いたします。

うな丼風

お麩を水で戻し、硬く絞り、油で炒め、鰻のたれをからめ、ご飯にのせて完成です。

混ぜご飯もどき

こんにゃく・水煮たけのこを油で炒め、砂糖・めんつゆで煮詰め水分を飛ばす。
ご飯に混ぜ合わせて完成です。

おはぎ

炊きあがったご飯を面棒で半つぶしにし、手で俵形にまるめる。
これに練りあんこをまんべんなくまぶすと、おはぎになります。

イチゴ風味パン

ボウルにケーキミックス粉・水・イチゴジャムを混ぜ、冷蔵庫にあったマーガリンをフライパンに溶かし、先ほどのタネを流し入れ弱火で両面を焼きあげる。
卵・牛乳がなくてもいちごパンケーキの完成です。

ドリアもどき

炊きあがったご飯を耐熱皿にのせ、ミートソース缶・ホワイトソース缶・マーガリン・パン粉をのせレンジにかければ完成です。電気が寸断されている場合は、卓上コンロ・石油ストーブの上で作ることができます。

今回紹介した5品はすべて主食です。
栄養学的に言えば、動物性たんぱく質・ビタミン・食物繊維が不足しております。
しかし、長年低たんぱく食事療法の栄養指導を行ってきた経験から、自信を持って皆さんにお伝えできる事は学会でも報告させて頂きましたが、エネルギーをしっかり摂っていれば低栄養にはならないということです。

当時作った5品を振り返ってみると、著しくバランスの悪いものではなかった事に気づきました。

1. レジスタントスターチ(ご飯に含まれております)

a)食物繊維と同じ作用があります。
b)難消化性でんぷんは消化されずに大腸まで届き便秘解消。
c)急激な血糖の上昇がなく、体脂肪になりにくい。
d)大腸で余分なコレステロールを吸着し排泄してくれる。

2. お麩のパワー

a)たんぱく質含有量が白米の10倍・100g中28.5gも含有。
b)旨み成分のグルタミン酸が豊富。

3. 小豆は鉄分豊富

a)30gのあんでお浸し1食(50g)の2倍以上の鉄分をとることができる。
b)カリウムも豊富で高血圧予防にも効果的。
c)必須アミノ酸(人間の身体で合成できない)をすべて含有している優れもの。
d)活性酸素を除去するポリフェノールが赤ワインの2倍近く含有。
e)ビタミンB群が豊富。(VB1・VB2・VB6)。

「備えあれば憂いなし」ということわざがありますが、先人の言い伝えがこんなに理にかなっていると痛感したことはありませんでした。
またいずれ何処かで発生するであろう災害時に、この経験が役に立てばと思います。

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