文字サイズ:

すこやかコラムすこやかコラム

膀胱尿管逆流症(VUR; vesicoureteral reflux)

膀胱尿管逆流症とは

腎臓から作られた尿は、尿管を通り膀胱へ一方通行で流れます。正常では尿管の出口(尿管口)には逆流防止弁の仕組みが備わっていて、膀胱に溜まった尿が腎臓へ流れることはありません。しかしこの尿管口の異常で膀胱の尿が腎臓へ逆流する病気があります。これを膀胱尿管逆流症(VUR; vesicoureteral reflux)と呼びます。

膀胱尿管逆流症が存在すると、膀胱内の細菌が容易に腎臓まで到達します。そのため逆流がない場合は膀胱炎で治癒するものが、逆流があると腎臓まで細菌が到達し腎盂腎炎といわれる腎臓の感染症を起こしやすくなります。この腎盂腎炎を繰り返すと、腎臓の組織が破壊され、腎機能の低下を引き起こすこととなります。

膀胱から尿管への尿の逆流が高度な場合、水腎症や水尿管症といわれる腎盂や尿管の拡張をきたすことがあります。しかし膀胱尿管逆流症自体は無症状で、痛みや排尿の異常等の症状は認めることはありません。

膀胱尿管逆流症の発生頻度

膀胱尿管逆流症は小児の1%に認められるといわれています。その多くは尿路感染症をきっかけに診断され、ときに出生前超音波検査によって尿路の異常から診断される場合もあります。また膀胱尿管逆流症の治療を受けている子供の約75%は女児であり、女性に多い傾向があります。

膀胱尿管逆流症には遺伝的側面もあり、膀胱尿管逆流症を認めたお子さんの兄弟姉妹の3人に1人は、同様に膀胱尿管逆流症があるとされています。またお母さんに膀胱尿管逆流症があった場合、お子さんの半分に膀胱尿管逆流症を認めるとされています。

膀胱尿管逆流症の診断

膀胱尿管逆流症は排尿時膀胱造影といわれるレントゲン検査によって診断します。これは造影剤を膀胱内に充満させ、その後排尿している間のレントゲン撮影を行うことによって逆流の有無を診断します。また膀胱尿管逆流症が認められた場合、腎機能と腎のダメージの評価のために腎シンチグラムという放射線アイソトープを用いた検査も行われます。

膀胱尿管逆流症の重症度分類

排尿時膀胱造影での逆流の程度と水腎症の程度によって以下の5段階に重症度が分類されます。重症度に応じて治療法を選択します。

  • I 度 逆流は尿管まで
  • II 度 逆流は腎盂に達し、水腎症(腎盂の拡張)はない
  • III 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は軽度
  • IV 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は中等度
  • V 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は高度で尿管のねじれを認める

膀胱尿管逆流症の治療法

膀胱尿管逆流症の多くは年齢とともに改善し自然治癒します。その理由として、成長とともに膀胱も成長するため、尿管口の逆流防止が機能するようになるからです。そのため膀胱尿管逆流症の治療としては、膀胱尿管逆流症が自然治癒するかどうかの見極めが重要になります。自然治癒すると見込まれれば保存的治療(尿路感染症の予防及び腎臓のダメージの予防)を行い、自然治癒が見込めない重症の膀胱尿管逆流症であれば手術療法を行います。

保存的治療

低用量の抗菌剤を投与しながら定期的に膀胱造影を行い、膀胱尿管逆流症の自然消失を待つ方法です。低年齢で重症度の低いものほど自然治癒する可能性が高いとされます。

手術療法

手術的に尿管と膀胱を新しく吻合することによって尿管への逆流を防止させる方法です。以下の場合手術療法を行います。

  • ・重症度が㈸度の場合
  • ・重症度が㈿度で保存的治療を1年行っても改善しない場合
  • ・重症度がいずれの場合でも保存的治療中に逆流が悪化した場合
  • ・腎機能が低下した場合
  • ・腎瘢痕(腎シンチグラムによる腎のダメージ)が高度な場合
  • ・思春期を過ぎた場合(思春期以降は自然治癒が期待できない)
  • ・尿路感染症を繰り返す場合

このように膀胱尿管逆流症の多くは小児期に発見される疾患で、軽症のものであれば自然治癒が見込まれる疾患です。しかしながら小児期に尿路感染症が見逃されたたり、まれに尿路感染を起こさなかったため、成人になってから膀胱尿管逆流症が発見される場合があります。思春期以降の女性で、月経や性交渉に伴い膀胱炎の発症の頻度が増加することはよく知られていることです。膀胱尿管逆流症が存在すると膀胱炎から腎盂腎炎が発症しますので、腎盂腎炎を繰り返す場合は膀胱尿管逆流症を疑い検査を行う必要があります。

いずれにせよ適切な時期に適切な治療を行うことによって治癒可能な疾患ですので、尿路感染症を繰り返す場合には泌尿器科専門医の適切な診断を受けるようにしてください。

<コラム担当> 医師 新村浩明