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血尿について

泌尿器科外来に受診される方のもっとも多い症状のひとつが血尿です。

今回は血尿について解説してみたいと思います。

血尿の種類

血尿とは、尿の中に赤血球が混ざった状態のことをいいます。尿中に混ざる赤血球の程度によって、多ければ目で見て赤い尿(肉眼的血尿)となり、少なければ見た目は正常の尿の色だけれども血が混ざっているいわゆる尿潜血陽性(または顕微鏡的血尿)の状態になります。どのくらい血液が混入すると肉眼的血尿になるかというと、100mlの尿に0.1ml以上の血液が混入すると見た目が赤くなり、肉眼的血尿といいます。

血尿の原因

血尿は尿路といわれる尿の通り道のいずれの場所で出血していても、血尿の原因になりえます。尿路とは具体的に腎臓、尿管、膀胱、尿道の4つをいいます。原因として多いのは感染症、結石、腫瘍です。その他に腎臓では糸球体腎炎といわれる糸球体(腎臓の中の尿を作る装置)の炎症も重要な原因になります。また交通事故などの外傷で尿路が損傷されれば血尿が出現します。以下にそれぞれの尿路の出血となる主な原因をあげてみました。

腎臓

  • 感染:腎盂腎炎
  • 結石:腎結石
  • 腫瘍:腎癌、腎盂癌
  • 糸球体腎炎:急性糸球体腎炎、IgA腎症、膜性腎症、急速進行性腎炎、巣状糸球体硬化症
  • 外傷:腎外傷
  • その他:腎血管異常(ナットクラッカー症候群、腎動脈瘤)

尿管

  • 結石:尿管結石
  • 腫瘍:尿管癌

膀胱

  • 感染:膀胱炎
  • 結石:膀胱結石
  • 腫瘍:膀胱癌

尿道

男性の場合、前立腺の中を尿道が走っているので前立腺疾患でも血尿になる。

  • 感染:尿道炎、前立腺炎
  • 結石:尿道結石
  • 腫瘍:尿道腫瘍、前立腺癌
  • 外傷:尿道損傷

血尿の診断

血尿を診断するためには尿検査を行います。その検査法には一般的に以下の尿試験紙法と尿沈渣検査法の2通りがあります。

尿試験紙法(定性試験)

尿に試験紙を浸すことによって検査します。尿の中に赤血球がある場合、試験紙が変色します。一般的に血尿の程度は、−、±、+、++、+++に分けられ、+以上を尿潜血陽性と診断します。簡便に検査できるので、尿潜血の一次検査に用いられます。

試験紙さえあればご家庭でも検査ができます。

尿沈渣検査法(定量試験)

尿沈渣とは、遠心機で尿中の成分を沈殿させた後に顕微鏡で観察する検査方法です。

400倍に拡大した顕微鏡で見える範囲(1視野)に赤血球が何個あるかで数値を示します。

1視野に5個以上の赤血球がある場合を、血尿としています。検査がやや面倒になりますので、試験紙法で尿潜血が陽性であった場合の2次検査として用いられます。

血尿と診断された場合の検査

肉眼的血尿が出現したり健康診断で尿潜血が陽性の場合は、必ず泌尿器科を受診していただき検査を受けるようにしましょう。血尿の原因は前述したように多くの原因が考えられます。その中でも生命を脅かす可能性のある尿路の悪性腫瘍(癌)は、初期の段階では特別な症状が出ることは少ないため、早期発見のためには血尿が唯一の手がかりになります。そこで症状のない血尿(無症候性血尿)で検査をする場合、特に悪性腫瘍の有無を念頭において検査を進めます。以下に血尿と診断された場合の主な検査について挙げました。

  • ・検尿:尿タンパクを認める場合、糸球体腎炎を疑う。尿沈渣で変形赤血球を認める場合は糸球体性の血尿を疑う。
  • ・尿培養:尿中に存在する細菌を同定する。
  • ・尿細胞診:尿中の悪性細胞の有無を診断する。
  • ・画像診断(超音波検査、静脈性尿路造影、CT検査):尿路の形態を各種画像検査で検査し、悪性腫瘍、尿路結石、血管の異常などの有無を診断する。
  • ・血液検査:血液生化学検査で内科的腎疾患の精査を行う。50歳以上の男性はPSA(前立腺特異抗原)検査を行い前立腺癌の有無を検査する。

以上の検査で尿路の悪性腫瘍などが疑われた場合、さらに必要に応じて以下の検査を行います。

  • ・膀胱鏡:膀胱内を直接観察することによって膀胱腫瘍の診断を行う。
  • ・逆行性腎盂造影:腎盂から尿管内に造影剤を注入することによりの腫瘍の有無を診断する。
  • ・分腎尿細胞診:左右の尿管からの尿を直接採取し、それぞれの尿中の悪性細胞の有無を検査することによって、悪性腫瘍の左右の局在を同定する。
  • ・腎盂尿管鏡検査:腎盂から尿管内の腫瘍の診断を行う。

原因不明の血尿

健康診断などで尿潜血が陽性と診断された場合に、そのなかで腎尿路疾患である割合は2.3%、その中でも尿路悪性腫瘍だった割合は0.5%とされています(Mariani AJら)。つまり無症候性顕微鏡的血尿では精査を行ってもその多くは原因が特定できません。多くは腎臓からの血尿と考えられています。その一部には糸球体の膜が薄くなり血液が尿中に漏れやすくなっている状態の菲薄基底膜症候群といった疾患があり、人口の約1%程度にみられると考えられています。

また肉眼的血尿の中にも画像診断等では原因が特定できないものが時々認められます。また肉眼的血尿と間違えやすいのが、激しい運動の後などに認める褐色の尿でミオグロビン尿というものがあります。これは激しい運動のため筋肉が崩壊するよって筋肉中のミオグロビンが血中に溶け出し最終的に尿中に入ったものですので、正確には血尿とは異なります。

ナットクラッカー症候群

肉眼的血尿の原因として稀に見られるもののひとつに、ナットクラッカー(くるみ割り)症候群というものがあります。これは左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈の間に挟まれることにより、腎静脈圧が亢進することによって腎出血を起こす疾患です。体の横から見ると、腎静脈がくるみで腹部大動脈と上腸間膜動脈がはさんであたかもくるみ割りのようなのでナットクラッカー症候群といいます。超音波検査や造影CTで診断されます。

ナットクラッカー症候群の多くは時間の経過とともに側副血行路といわれる血液の別ルートが発達しますので、自然に治ることがほとんどです。

血尿の治療

血尿の治療はそれぞれの原因別に最適な治療が行われます。そのため原因が特定できない血尿の場合は、血尿そのものを治療することはできず多くは経過観察します。

  • ・糸球体腎炎:内科治療
  • ・尿路感染症:抗生剤投与
  • ・尿路結石:体外衝撃波破砕術や経尿道的破砕術による結石除去。
  • ・尿路悪性腫瘍:手術

血尿と貧血

血尿が続く場合よく貧血にならないかと質問されます。一般的に顕微鏡的血尿の場合は、出血量は極少量ですので貧血になることはありません。肉眼的血尿の場合は、血尿の程度と期間によっては貧血になる場合があります。稀にですが腎臓や前立腺の腫瘍からの出血の場合では、強い血尿が出る場合もあり相当の貧血となる事もあります。

血尿は尿路系疾患の存在を疑わせるサインのひとつです。顕微鏡的血尿の多くは原因が特定されませんが、一方、顕微鏡的血尿と診断されて3年以内の間に1〜3%の方に悪性腫瘍が見つかったという報告もあります(Murakami Sら)。顕微鏡的血尿の程度と疾患の有無は相関しないともいわれています。尿路悪性腫瘍の早期発見のためにも健康診断で尿潜血を指摘されたら必ず泌尿器科を受診するようにしてください。 またメールでのご相談も随時受け付けております。

<コラム担当> 医師 新村浩明