乳腺・甲状腺外科の主な診療対象疾患は「乳がん」です。女性に圧倒的に多い疾患であること、若年者の発症も多いこと(発症頻度は40歳代から上昇します)が、他の癌腫との大きな違いです。治療から5年以上経過した後の晩期再発も少なくないため、診断から治療、その後の経過観察まで長期にわたる管理が必要となります。乳がんはマンモグラフィーをはじめとした検診によるエビデンスが最も蓄積されている癌腫の一つであり、検診受診による早期発見が重視されています。一方で、治療法が急速に進歩しており、手術に薬物療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療を行うことで、進行癌の方々においても長期生存を達成できるケースが増加しています。
代表的な乳房の症状としては、しこりや乳頭からの血性分泌物が挙げられます。なお、乳房の痛みを自覚して乳腺外科外来を受診される患者さんも多くいらっしゃいますが、乳房の痛みは乳がんの典型的な症状ではありません。もちろん、症状に不安がある際は決してご自身で抱え込まずに受診してください。
SECTION01
「乳がん」は乳房にある乳腺(母乳を作る「小葉」と母乳を乳頭に運ぶ「乳管」から構成)にできる悪性の腫瘍で、その多くは「乳管」から発生します。
また、乳がんはシコリの大きさやリンパ節への転移の有無・遠隔病変(肝臓や肺・骨など)への転移の有無でステージ(病期)が決まります。
日本では乳がん罹患率・死亡率が共に年々増加しており、2017年には乳がんで14,285人が亡くなっています。
「人口動態統計によるがん死亡データ(1980年〜2017年)」出典:国立がん研究センター
SECTION02
乳がんの症状の多くは痛みの無い「シコリ(乳房腫瘤)」です。個人差や病変による違いはありますが、このシコリが2cm前後の大きさになると、乳房の上から自分で触れることができるようになると言われています。また、乳頭からの血液が混じった分泌物もよく見受けられる症状です。その他にも乳輪や乳頭のただれ、皮膚のくぼみ等の症状にも注意が必要です。
乳がん以外にも乳腺外科が対象とする疾患は存在します。気になる症状があった場合は遠慮せず、医師にご相談ください。
女性ホルモンのバランスが不安定になり起こる症状であり、乳房の発達や縮小の変化で特徴づけられます。必ずしも治療を必要とする状態ではありませんが、小さなシコリなど、乳がんと似た症状が出現することもありますので注意が必要です。
乳腺において細菌感染などを背景に炎症が起こり、乳房が腫れたり痛みを伴う状態です。典型的な症状としては、皮膚の発赤や痛み・微熱などが挙げられ、出産後の授乳中などに発生する傾向にあります。
マンモグラフィーで乳房を撮影すると、様々な形の石灰化が見られることがあります。多くは良性疾患ですが、乳がんの一部は石灰化のみを手掛かりに発見されることがあります。そのため、専門とする医師に判断を委ねることが望ましいと考えます。
乳管が閉塞して水が溜まり、袋のような状態になることです。基本的に、病的な意味はありません。
上記のように、治療の必要がない良性の状態もありますが一般の方々においては、悪性(がん)・良性の判断が難しいケースも多くあります。そのため不安がある場合、まずは受診をおすすめします。
SECTION03
月に一度の「セルフチェック(自己触診)」をおすすめします。乳がんは自分で発見できる可能性がある数少ない、がんの一つです。
早期発見のために月に1回の自己触診を習慣づけてみてください。
セルフチェックのタイミングと場所
セルフチェックは月経が終わって1週間以内、乳房が柔らかい時に行いましょう。閉経後の方は毎月1回、日にちを決めて行うことをおすすめします。
セルフチェックは入浴の際など鏡のある場所で、石鹸やクリームなどで手の滑りをよくして行うと、シコリの感触が分かりやすくなります。また、就寝前に仰向けの姿勢で行うのも有効です。
厚生労働省の指針として、40歳以上の女性に対して、2年に一度の「乳がん検査」が推奨されています。
乳がん検診の目的は、乳がんを早期に発見し、死亡率を低下させることです。そのような目的において現在最も世界的に普及しているのはマンモグラフィー検査です。また、マンモグラフィー検査のみで十分に乳がんを指摘することが難しい場合(高濃度乳房など)には、乳腺エコー検査の併用も選択肢に挙がります。
当院のマンモグラフィー検査は
女性技師が行っています。
マンモグラフィは、乳房専用のレントゲン検査のことで腫瘍の有無や大きさ・形、石灰化の有無を調べることができます。触診ではわからない小さなシコリや石灰化のみを呈するような微小な乳がんの発見に有効です。乳がんの早期発見に欠かすことができない検査と言えます。
乳腺エコーは乳房に超音波をあて、乳房内に存在するシコリの発見に大きな効果を発揮します。加えて、大きさや内部や境界の性状からシコリが悪性か判断することに役立ちます。加えて、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無も調べることができます。所要時間は20分程度です。エコーは乳腺が発達している若い方でも、シコリが見つけやすく、小さなシコリも発見できるのが特徴です。
SECTION04
乳房部分切除術
がんが露出しないような形で、がんを含む乳腺組織を最小限の範囲で切除する手術であり、乳房の膨らみや乳頭を残すことができます。がんが局所にとどまっている場合はこの手術方法が勧められています。原則として、手術後は再発を予防するための放射線治療が必要であり、それにより、乳房切除術と同等の生存率を達成することができます。
乳房切除術
がんが大きい場合や、がんが乳腺組織の広範囲に広がっている場合、がんが乳房内に多発している場合など乳房部分切除術が適用できない場合は乳頭・乳輪を含めた乳房全てを切除します。
※患者さんの状態に応じて、上記手術に脇下のリンパ節の手術も組み合わせます。
放射線療法は主に手術療法に組み合わせて実施します。最も多いパターンは、部分切除術を実施した後の温存した乳房組織に放射線を照射するケースで、肉眼的には確認できないようながん細胞を根絶させるために行います。全切除を実施した場合でも、手術においてリンパ節転移を多く認めた場合は胸壁や周囲のリンパ節に放射線を照射することがあります。
内分泌療法
乳がんの多くは女性ホルモン( エストロゲンなど)を取り込んで増殖します。内分泌療法は、このようなタイプの乳がんに対して有効です。手術後の再発リスクを低減させる目的で投与される他、遠隔転移(肝臓や肺、骨への転移)が存在するような患者さんにおいても病変の増大を抑えるために投与されることがあります。
抗がん剤療法
抗がん剤はがん細胞の増殖を抑えるために投与します。根治を目指すことができる場合には再発リスクを低下させることが目的であり、手術の前後に組み合わせて投与します。また、すでに遠隔転移( 肝臓や肺、骨への転移)が存在する場合においても、病状の進行を遅らせたり症状を和らげる目的で投与を行います。
抗がん剤治療では一時的・長期的に、倦怠感や脱毛、しびれ、免疫力の低下などの副作用が生じる場合があり医師や看護師の適切なサポートの元で実施します。
化学療法室
抗HER2療法
乳がん患者全体の25%ほどを占めるHER2陽性乳がんに対して有効な治療法であり、近年大きな発展を遂げています。再発予防や遠隔転移(肝臓や肺・骨への転移)の緩和を目的に投与され、多くの場合大きな効果があります。
SECTION05
常磐病院では2020年8月25日より遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の患者さんを対象とした「遺伝子外来」を開設しています。乳がんや卵巣がんの一部は遺伝的な要因が関与し発祥していると考えられており、BRCA1/2遺伝子変異の有無を調べることで、ご本人や血縁者の方に対して、発がんリスクの発見や治療の提案が可能となりますのでお気軽にご相談・ご紹介ください。
検査対象となる方
■乳がんを発症した方のうち、以下の基準を満たす方
・45歳以下の乳がん発症
・2個以上の原発性乳がん発症
・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん発症
・第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者が1名以上いる方
■卵巣がん・卵管がん・腹膜がんを発症した方
■男性乳がんを発症した方
※上記以外でもお気軽にお問合せください。
検査フロー
SECTION06
SECTION07
①タイトル/Telepathology in intraoperative frozen section consultation of breast cancer sentinel node biopsy in Fukushima, Japan following the 2011 triple disaster: diagnostic accuracy and required time during the early implementation phase
・著者/川上浩彬、尾崎章彦、金田侑大、浅野重之、井内康輝、廣岡信一、上遠野歩、高木莉子、小坂真琴、村山安寿、澤野豊明、島村泰輝、坪倉正治、黒川友博、立花和之進、和田真弘、谷本哲也、大竹徹、 北村直幸、江尻友三、馬籠英之、新村浩明、神崎憲雄
学術研究報告書SECTION08
名誉院長
昭和50年 | 福島県立医科大学 卒業 |
昭和54年 | 東北大学医学部第1外科入局 |
昭和57年 | 東北大学医学部医学博士取得 |
昭和57年 | 国立仙台病院麻酔科入局 |
昭和57年 | いわき市立常磐病院 |
平成22年4月 | ときわ会常磐病院 |
乳腺・甲状腺センター センター長
常磐病院において乳腺診療を担当しております尾崎章彦と申します。私は2010年に医学部を卒業し、震災を契機に2012年に福島県に移住、外科トレーニングを開始しました。2014年からは浜通り地方に移り、乳がんを専門とする外科医として診療を続けてまいりました。その中で、東日本大震災後の浜通り地方の乳がん患者さんの健康被害などについても調査を行い、地域に返すような作業を続けてまいりました。
2018年には、以前より縁があった常磐病院において乳腺外科を立ち上げる機会に恵まれました。「飛び込みの受診もお断りせず」をモットーに診療を続け、3年間での外来延べ患者数は5,000人を超えております。2020年の乳がん手術件数は90件、外来化学療法実施件数は557件であり、2021年は、ありがたいことに、さらに多くの方々の治療に携わらせていただいております。まだまだ若輩者ではありますが、地域の方々にお役に立てるよう取り組んで参りますので、お気軽に病院までご連絡いただけますと幸いです。
平成22年3月 | 東京大学医学部医学科 卒業 |
平成22年4月 | 国保旭中央病院初期研修プログラム |
平成24年4月 | 竹田綜合病院 外科 |
平成26年10月 | 南相馬市立総合病院外科 外科 |
平成30年1月 | 大町病院 |
平成30年7月 | ときわ会常磐病院 |
乳腺・甲状腺外科 部長
平成13年3月 | 福島県立医科大学医学部卒業 |
平成13年5月 | 福島県立医科大学医学部付属病院 第二外科 研修医 |
平成16年12月 | 福島県立医科大学医学部付属病院 第二外科 助手 |
平成19年10月 | 福島県立大野病院 外科医長 |
平成25年5月 | 埼玉医科大学国際医療センター 消化器病センター 消化器腫瘍科 講師 |
令和5年4月 | ときわ会常磐病院 |
担当医師
平成26年3月 | 千葉大学医学部医学科 卒業 |
平成28年4月 | 南相馬市立総合病院 外科 後期研修医 |
令和1年8月 | 公益財団法人仙台市医療センター仙台オープン病院 |
令和2年10月 | ときわ会常磐病院 |
非常勤医師
2004年 | 福島県立医科大学医学部卒 |
2012年 | 福島県立医科大学大学院修了 |
2013年-2015年 | MD Anderson Cancer Center留学 |
非常勤医師
新潟大学医学部医学科卒業 |
慶應義塾大学大学院医学研究科 博士(医学)学位取得 |