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大腸がん(治療編)すこやかコラム

1.大腸がんと診断された後の流れ

 内視鏡検査での生検で大腸がんと確定診断がなされるのは前回に述べたとおりです。その後の検査の流れは、進行度合いによって異なります。
 まず、粘膜(M)や浅い粘膜下層(SM1)といわれる明らかに深さが浅い早期がんでは、現在内視鏡的に切除が行われることが標準治療となっています。こういった早期がんでは、後の病理組織検査での結果にもよりますが、原則的にはリンパ節転移や遠隔転移の可能性が非常に低いため、それ以上の検査は行わず、1-2年後の内視鏡フォローアップとなることが多いです。

 一方で、明らかにSM2より深い進行したがんでは、最初から治療として外科的手術を行う必要がありますので、術前により詳しい検査が行われます。ただし、内視鏡的に深さがSM1かSM2なのかは判断が難しい場合もあるため、悩ましい時には一度内視鏡的に治療を行ってから、必要に応じて追加切除として外科的手術が行われる場合もあります。

2.大腸がん術前の検査

 大腸がんの外科的手術を行う前には、手術を安全に行うために全身麻酔への耐術能と大腸がんの進行度合い(病期)を調べるための検査が行われます。
 耐術能の検査としては、血液検査(肝機能や腎機能など一般的な血液検査)、心電図検査、心臓超音波検査、肺機能検査、下肢静脈エコー検査などを行われます。また既往歴があれば術前に専門医やかかりつけ医に手術に際して特に問題がないかを確認することもあります。術前の検査で問題があれば、実際に全身麻酔をかける麻酔科医と相談しつつ、術前にまず耐術能の問題を改善してから手術を行う場合もあります。例えば、術前検査で冠動脈狭窄が見つかった場合には、狭窄の程度にもよりますが、たとえがんであっても術前になんらかの介入(心臓カテーテルでの冠動脈バルーン拡張術など)を行うこともあります。

 大腸がんの進行度や部位を詳しく調べるための検査も並行して行われます。現在は腹腔鏡での手術が多く、腫瘍を手で触ることができないため、術前にしっかりと腫瘍の位置を確認するために、大腸造影検査(バリウム検査)を行った上で、さらに腹腔鏡で確認しやすくするために再度内視鏡検査で点墨といい、目印をつけておくことがあります。また、リンパ節転移や遠隔転移を明らかにするために、腎機能に問題がなければ造影剤を用いた造影CT検査が行われます。腎機能に問題がある場合には造影剤を用いない単純CT検査を行います。 遠隔転移が疑われる場合には、腹部エコー検査、造影MRI検査、PET-CT検査などを追加で行います。また、血液検査において術後の再発の指標のため、術前の腫瘍マーカーも計測しておくことが一般的です。

 また、大腸がんとは実際には関係はないのですが、慣例的に術前に上部消化管内視鏡をスクリーニング目的に行うことが多いです。実際に、大腸がんを契機にスクリーニング検査で胃がんも見つかり同時に手術を行った経験もあります。

3.大腸がんの病期

 上の項で述べたように進行大腸がんでは、術前にさまざまな検査を行い、病期(進行度合い)を決定します。大腸がんの病期は、原則的に、深さ(T)、リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)によって決定されます。術前にこの頭文字を取ったTNM分類と呼ばれる病期分類に基づいて臨床病期が決定された上で、手術術式が検討されます。病期は手術を行った後に摘出された標本(大腸がん)を病理組織検査に提出し、最終病期が決定され、その後の化学療法の必要性の有無などの決定に役立てられます。病期は簡易的に分けるとすれば、遠隔転移やリンパ節転移がなければステージ1-2、リンパ節転移はあるが遠隔転移がなければステージ3、遠隔転移があればステージ4となります。

4.内視鏡治療

 本邦においては、早期の大腸がんに対しては積極的に内視鏡的手術が行われています。以前はそのような内視鏡的治療の技術も器具もなかったため外科的手術の1択でしたが、内視鏡的治療は外科的手術に比べて明らかに体への負担が小さく、治療の幅を広げています。実際には、早期がんに対して、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)と呼ばれる治療を病変の形や深さに応じて適切に行い治療が行われます。前述の通り、明らかにSM2より深い進行したがんでは最初から治療として外科的手術を行う必要がありますが、実際には内視鏡的に深さがSM1かSM2なのかは判断が難しい場合もあるため、悩ましい時には内視鏡的治療にトライし、病理組織検査に提出し、必要があれば追加切除として外科的手術が行われる場合もあります。

5.手術治療

 大腸がんの治療の大原則はがんを完全に取り切ることです。そのため、進行大腸がんでは原則的に外科的手術が行われます。これは進行大腸がんではリンパ節転移を伴う可能性があり、所属リンパ節を同時に切除することが望ましいためです。術前診断の進行度に基づき、外科医がどのレベル(支配血管の根部なのかより末梢なのか、など)までリンパ節を切除(リンパ節郭清)するか決定します。また、腫瘍への到達方法としては、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術があります。腹腔鏡手術もロボット支援下手術も腫瘍を摘出するために小開腹が必要になります。現在、本邦では腹腔鏡での手術が一般的になりつつありますが、施設基準や進行度、緊急性に応じて、開腹手術も今でも標準的に行われる術式です。ちなみにときわ会常磐病院でも腹腔鏡手術を標準術式として手術を行っています。

 ロボット支援下手術は現在、大腸がんの中では直腸がんにしか保険適応がなく、一部の施設でしか実施できないため消化器領域では現時点では標準術式とはなっていませんが、今後適応が拡大されれば腹腔鏡手術と同様に標準術式となる可能性があり得ます。

6.術後のフォローアップ

 大腸がんを患い手術を受けた患者さんでは、原則的に術後5年間のフォローアップを行うことが一般的になっています。これは大腸がん術後の患者さんでは、ある一定の割合で術後再発が認められるためです。再発率は最終病期(ステージ)や術後補助化学療法の有無などで異なることが知られています。実際にフォローアップで行われる検査としては血液検査、CT検査、内視鏡検査があります。一般的には術後2-3年間は比較的こまめに検査を、その後は少し間隔を開けて検査を行うことが多いです。もし術後再発をきたしてしまった場合には、再発の部位にもよりますが、追加で手術を行ったり、化学療法(抗がん剤)、放射線治療を行うことがあります。

7.化学療法(抗がん剤)

 手術療法と並行して、大腸がんの治療の一翼を担うのが化学療法(抗がん剤)です。化学療法には大きく分けて2つの目的別の種類があります。1つ目は術後補助化学療法をいい、名前の通り手術が行われた後の再発の可能性を低減させる目的で行われます。もう1つは再発転移に対する化学療法で、診断時点で手術切除ができない大腸がんや術後しばらくしてから再発してしまった大腸がんの患者さんで行われます。
術後補助化学療法は、原則的に手術から4-8週後に開始し、原則6ヶ月間行われます。対象者は最終ステージがハイリスクステージ2あるいはステージ3と診断された患者さんです。もちろん年齢や体調を考慮して、このステージ当てはまっても術後補助化学療法を行わないこともあります。最終的には、主治医と患者さん、そしてその家族で相談し、最終ステージや体調に応じて内服薬を使った化学療法か、点滴薬を使った化学療法を行うかを決定します。

 一方で手術不能例や再発転移に対する化学療法は治療の期間は決まっていません。現在大腸がんに対して使うことができる抗がん剤は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も加わり、かなり種類が増えてきています。こういった薬剤を組み合わせ、抗腫瘍効果がみられなくなった別の種類の抗がん剤に変更することを繰り返し、できるだけ長く抗がん剤を続けることが推奨されています。また、化学療法には副作用もつきものですので、副作用と折り合いながら抗腫瘍効果がみられる抗がん剤をできるだけ続けられるように主治医と患者さんが相談しながら治療を進めます。腫瘍に対する効果が認められ、切除不能だった部位が切除可能となった場合には、手術による切除が行われる場合もあります。

 どの目的の化学療法かに関わらず、点滴薬を使った化学療法を行う場合には中心静脈ポートと呼ばれる安全に抗がん剤を血管内に投与する点滴の差し口を作ることが一般的です。中心静脈ポートは、局所麻酔の手術で前胸部や上腕に作られます。手術時間は30分から1時間程度です。

8.放射線治療

 下部直腸癌では進行度に応じて、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた術前補助化学放射線療法を行うことがあります。一方で直腸を除く大腸がんでは放射線治療はあまり一般的な治療ではありません。これは大腸が小腸と接しているため、放射線腸炎などを引き起こす可能性が高いことが関与しています。

9.緩和的治療

 再発転移の患者さんで、最初から年齢や基礎疾患の兼ね合いで化学療法ができない場合や、再発転移に対する化学療法を使い尽くし、これ以上治療を継続できない患者さんでは、緩和的な治療を行います。一方で、広義には近年、狭義の緩和的治療は終末期の麻薬(モルヒネなど)などによる薬物療法に限らず、がんと診断されてもっと早期から患者さんやその遺族の心に寄り添う姿勢そのものを緩和ケアと呼ぶようになってきています。患者さんやその家族の気持ちに寄り添いつつ、身体的・精神的な苦痛が出現した場合に適切な薬物治療や専門家(緩和ケアチームや精神科医)への紹介を行うことが現在一般的に行われている緩和的治療です。

10.最後に

 ときわ会常磐病院では大腸がんの標準的治療については、内視鏡治療から開腹・腹腔鏡手術まで、全ての治療に対応しています。また、化学療法もガイドラインに基づいて積極的に行なっていますし、もちろん緩和治療にも対応しております。大腸がんに関して、気になることがある場合には当院外科の外来までお気軽にご連絡ください。

コラム担当医師:ときわ会常磐病院 外科 澤野豊明